1972-'73 Let's Take a New Look and Act
地区ガバナー 
田中 豊
President ROTARY INTERNATIONAL Roy D. Hickman


 “もう一度見直そう”
 「ロータリーの綱領」をもう一度見直し、各人がその立場において自問し、「四大奉仕部門」の暗示するところを自ら実践していこう。
 「クラブ奉仕部門」では、奉仕の機会を求める手段として、知己を拡め、新会員を推薦しよう。
 「職業奉仕部門」では、ロータリアン全てがその個人生活・職業生活に常に「奉仕の理想」を適用することで、地域社会に関心をもち、より住みよくする事業に参加していこう。
 「国際奉仕部門」では、奉仕の理想に結ばれた実業人と専門職業人の世界的親交によって、国際間の理解と親善と平和とを推進していこう。
 
 ガバナー方針
 RI会長のターゲット「もう一度見直そう!」を掲げて前進していく。
 1905年、ポール・ハリスがロータリーを創立し、「奉仕の理想」を提唱したころ、私は幼児であり、まもなく日露戦争で父を亡くし、今在るのは全く社会の恩恵である。ガバナーの職責に努力することでこの感謝に応え、変化の激しい社会に人間性を取り戻すためにも、RI直前会長ブライトホルツ氏の「善意はあなたから」の標語に敬意を表したい。
 「以勤補拙」の心境で、皆様と共に努力し、一歩でもこの理想に近づきたいと思う。

 国際協議会に参加して
 1972年5月30日から6月6日まで、「RI国際協議会」は、米国ニューヨーク州のレーク・プラシッドで開催された。
 世界320余りの地区ガバナーノミニー、各ご夫人、RI役員、事務局、リーダー等約1000名が出席された。
 毎朝9時より、ブリナリーセッションが在り、午後からグループセッションになった。ここでのリーダーは、韓国の金PGと横浜の上野PGで、湯浅RI理事はカウンセラーとして、また東ケ崎元RI会長も時々出席された。
 「国際タレントの夕べ」では、立花ガバナー夫人の指導で「炭坑節」を、赤いハッピ姿で披露した。
 レーク・プラシッドは、軽井沢のような環境で、誰もがもう一度来たいと思うところである。歳を経て再び学生時代のように勉強できたことを嬉しく思った。

 Houston年次大会
 1972年6月11日から15日まで、RI世界大会は、米国テキサス州ヒューストンで開催された。日本からの出席者は300名程で、簡素な中に華やかで内容のある良い大会であった。
 ブライトホルツRI会長は、第63次世界大会にあたり、ヒューストンは、NASA(米国航空宇宙局)、宇宙飛行センター、月探査本部の在る所で、14のカレッジのある文教地区であると説明され、大会テーマ「善意はあなたから始まる」をテキサススタイルの歓迎で致しますと挨拶された。

 ロータリーの奉仕活動の特徴は「職業奉仕」にあり
 他の奉仕団体とロータリーが区別される特徴の1つは、「職業奉仕」にある。会員の資格の基をなす「職業分類の原則」は、自由に自己の職業の倫理向上について論じられるよう「一職種一会員制」になっている。
 地域社会の職業の横断面を網羅し、各々の角度から刺激しあい、相互の友愛心を深め、それを媒体として、より高い境地を学び、職業その他で実践する事で、「他人への思いやりと助け合い」が狭義の職業奉仕であり、自己の職業や地域社会に実践されたい。
 「ロータリーの理想」が全てにおいて実現していたら、ロータリーは不要なものかも知れない。ロータリーの目的は、「ロータリーを必要としない社会をつくること」であると理解したい。
 レーク・プラシッドの会場の入り口には「Enter to learn(入りて学び)、Go forth to serve(出でて奉仕せよ)」と書かれている。ロータリーは、「精神的実践活動の実体」は何かということを探求する者の集まりである。

 ロータリーの質の懸念と相互理解
 1920年(大正12)、日本にロータリーが導入されてから、今年で53年目になる。ロータリーが日本に「奉仕の理想」を普及してきた功績は大であり、この間、日本のロータリーは、会員増強、出席率、そしてロータリー財団への会員1人あたりの寄付は世界最高となった。
 1974年、RIは日本の力を重視し、毎年1名の理事をだすこととなった。かく大きな団体となったものの、拡大に急なる余り、会員の質の低下が懸念され、例会の中座や、ロータリー活動への参加の低調さなども指摘されてきた。ロータリーは今後「インフォメーション」から「コミュニケーション」にまで進み、会員の相互理解の社会を目指し、相互に「インフォメーション」を提供する「コミュニケーション」こそ、今後のロータリーの進むべき道であろう。

 卓話を聞いての感動
 あるロータリー・クラブの例会で2人の会員から卓話を聞いた。
 1人は繊維会社の支店長で、米国ダラスへ赴任されたときの話である。妻と3人の子供達が言葉の不自由から来るコンプレックスを、現地のクラスメートや近所の奥様方に助けられた事であった。この「サウザーンホスピタリティ」は困難の中に建国した「パイオニア精神」が「親睦」なくしては社会生活ができないという体験からの伝統文化に感動した。
 もう1人は華僑の話で、華僑の交際は財産や地位や名声によらず「人の相」を自ら判断して、それに合格した人と交際するという話であった。華僑社会では、協同事業は、出資能力に応じ、それぞれの責任者となり、互いに仕事を任せ、「信頼しあう」という事が通例だということであった。
 この午後、クラブ会員から新店舗の開店に招かれた。彼は、小学校を出ただけで、YMCAで英語を学ばれ、招待状の筆跡も美しく達筆であり、独学で今日の教養を得られたという話を聞いた。
 かかる感動の見聞は、ロータリーのお陰であり、感動の半日を過ごせたと感謝致したい。

 ロータリーの実践
 ロータリーは、かつて社会的に活動した人や現在働いている人達がクラブを担っているのであるから「実社会的」であり、「通俗的」なものである。
「四つのテスト」にしても日常の生活に役立つもののみで、反省の下で努力することに意義があり、意義があるからロータリーはいきいきと発展するのである。
 ロータリーは、「高級な倫理観」でもなく、「高遠な宗教的理想」でもなくて良いと思う。個人的な向上と奉仕の活動を行うための「実践道徳」に近いものである。
 ロータリーは、初め「友情」を求め、生活に潤いと相互援助を行うことから出発し、5年後のロータリーは「1本の巨木」でなく、色々の特別の花を咲かせ、実を結ぶ、「若々しい木々からなる森」であらねばならない。

 国際環境デーを迎えて
 6月5日は「第1回国際環境デー」である。昨年の第1回環境会議の開催日を記念した日で、日本の提唱であった。この会議のプロモーターであったモーリス・ストロング氏が、今年のローザンヌRI国際大会で国際環境問題研究所長として記念講演の予定である。
 昨年のストックホルムでの環境会議のテーマは「かけがえのない地球」であった。また日本のRI第373地区の大会では、「かけがえのない日本」をテーマに、岩切章太郎氏の講演があった。現在の地球上の36億の人口は、21世紀に70億に達する。環境だけでなく資源の枯渇や食料問題から、今や人類は重大な危機にある。昨年の環境会議で日本は公害問題で非難を浴びたが、アフリカの代表は、美しい空気でなく、より多くの煙突が欲しいと言った。狭い視野からのみ判断のできないのが、広い地球の問題であった。
 世界的に指導的立場にある会員73万人余りを持つロータリーでは、国際理解により環境整備や公害防止は勿論のこと、更に積極的にエネルギー、資源、食料等の問題につき力をあわせて参りたいものである。
 国際環境デーの一環として3月29日、京都市内8RC共同で、国立京都国際会館に桜樹100本を植樹することに決定し、6月10日迄に会員1人2,000円を納入頂く事となった。(翌年3月14日、総額147万円で植樹)

 ガバナーのプロフィール
異色の文化人
北川貞次郎

 田中君は、昭和23年戦後経済復興のため46歳で京都経済同友会結成に努力され、後に代表幹事になられた。
 明治35年、新潟県のお生まれで、京都に定住された若かりし頃、京都人気質に強い抵抗を感じられ、その閉鎖的排他性を厳しく批判していられた。「京都の伝統」が灰色に暗く映ったのであろう。しかしまた一面、京都人の中にある進歩的な頭脳、たとえば「疏水」をつくり、日本最初の「蹴上水力発電所」建設するという進取闊達の気質を愛されていた。
 田中君は京都人らしくない京都人と評され、異色の存在であった。趣味は多く、俳句は山口誓子門下生として「絹絲」の号を持ち、「ロータリーの友」にも永く投句しておられた。油絵は「チャーチル会」の会員であり、最近は「ひねり会」に大変熱心で外国のイメージ物を和風に作り上げるのが得意で、新邸の庭に窯を新設された。
 また、仕事の関係上、海外への出張も多く、外国クラブの雰囲気を日本のクラブに取り入れたいと、よく話しておられた。
 会議での君の存在は、雰囲気を和らげる不思議な力があり、恐らくガバナーとして、諸々の会議をさぞかし軟らかくリードされることと思う。